【セミナーレポ】ドコモ×ユニパレット「社内から外へ」制度リニューアルで生まれた"本気の新規事業"のつくり方
大企業の中で新規事業を成功させることは、正直なところ容易ではありません。計画と実績の差分を詰める会議、前例や稟議の壁、そして何より市場の不確実性――。それでも「外で戦える事業」を生み出そうと、株式会社NTTドコモの雨宮さんとユニパレット株式会社代表の彌重が、社内制度の全面リニューアルに挑みました。
本記事では、その背景と実装、そして現場でのリアルな葛藤や突破口を追ったセミナーの様子をレポートいたします。読後には、「自社でも再現できる」と感じていただけるような具体的なヒントをお持ち帰りください。

ユニパレット株式会社——「外で勝てるか」を初期から見抜く伴走
まずはパートナーであるユニパレットについて。代表の彌重は、サイバーエージェント子会社の代表、リクルートでの事業企画を経て独立。自身が社内起業・スピンアウトの両側の経験を持つことから、「0→1のアイデア創出〜検証」を、ステージゲートで愚直に進める伴走型の支援を磨いてきた。アイデア→顧客インタビュー→広告検証→サービス開発へと段階を切り分け、各段階で"続ける基準"を明確化。サービス開発に入る前に、広告やヒアリングで市場仮説を極限まで検証し、社内の論理に閉じず外の顧客と向き合う。生成AIの進化も味方に、AIエージェントを組み合わせて市場性評価やフィードバックを高速化するのも近年の強みだ。

新規事業支援に関して大きく二つ行っている。ひとつは、事業開発プロジェクトの"足りないピース"を埋める伴走参画。もうひとつは、各社に適した新規事業制度そのものの設計・標準化だ。
後者では、同社が蓄積した審査基準・検証プロセスを各社の目的と文脈に合わせて移植し、「身近な課題のアイデアコンテスト」で終わらせない運営の型をつくる。いずれも共通するのは、「この会社がやる意味」を最初期に徹底的に問う姿勢である。

具体的には、レベル1:顧客の"困りごと"の定義、レベル2:ターゲットの特定と仮説立て、レベル3:広告や簡易LPでの需要仮説検証、レベル4:支払い意向の確認——といった段階で、続ける/やめるの判断を透明にする。
こうした"外で勝つ型"をめぐって、彌重はこう語る。
「社外の風を入れつつ、過去の蓄積も活かす線引きを丁寧にやるのが肝です。"なぜそれをやるのか"を言語化し、続ける基準を合意できれば、現場の迷いは一気に減ります」
「検証は"作ってから"では遅い。広告やヒアリングで、顧客の反応を先に取りに行く。生成AIもうまく使えば、初期の学習サイクルは驚くほど速く回せます」

NTTドコモ——社員が外で戦う「STARTUPコース」へ刷新
一方、ドコモ側のチャレンジも大胆だ。雨宮さんが所属する経営企画/事業開発は、CVCやM&Aによるオープンイノベーションに加え、社員が自らファウンダーとして社外に打って出る「docomo STARTUP」を推進する。狙いは、未踏領域——既存事業の延長では捉えきれないが、技術・市場トレンドから"来る"と目する領域だ。
プログラムは学習→コンテスト→事業検証→事業化を一気通貫で支援するが、象徴的なのが「STARTUPコース」。社外から資金調達を前提にドコモはマイナー出資(原則15%未満)に徹し、持分法適用による"大企業マネジメントの制約"を避ける。

評価軸は"ドコモのアセット活用"ではなく、投資家目線の市場選択とチーム。各フェーズの理想状態を定義した審査基準に沿って進捗を判定し、内外のモメンタムを合わせる。生成AI領域では、EXAWIZARDSとの業務提携や、スピンアウト企業SUPERNOVAの「Stella AI for Biz」活用など、社内改善と市場提供を両輪で加速させている。
エンタメ領域ではMUGENUPの子会社化、法人領域では業界別ソリューションの共創など、手段は一つに限らない。
制度の核にある考え方を、雨宮さんはこう整理する。
「計画と実績の差を詰める"社内会計の物差し"だけでは、新規事業は育ちません。だからこそ投資家の視点に振り切る。大切なのは市場選択とチームです」
「伴走支援はできる限り内製化しました。外部に委ねると"案件を残す力学"が働きがち。社員が泥臭くCPFを回し、必要な専門家はスポットで呼ぶ。その方が厳しく健全に磨かれる」
制度開始から3年でスピンアウトは9社規模へ。ヘアアイロンのシェアリング「ReCute」、生成AIサービスの「SUPERNOVA」、キャリア教育の「RePlayce」、アニメ制作AIの「CrestLab」など、挑戦の幅は広がり続けている。社内の挑戦者コミュニティの熱量も高まり、再チャレンジを促すショートカットルートの整備や、テーマ設定型の募集など次の打ち手にも踏み込む。

トークセッション——"大企業発"を機動化するために
大企業で新規事業が進みにくい本質的な理由は?
雨宮さん「一言でいえば"物差しの違い"ですね。大企業は計画と実績の差分から語る文化が強い。一方、スタートアップは仮説学習のスピードと柔軟性が命。計画どおりにいくことの方が稀です。だからこそ、起業家に"社内説明の宿題"を背負わせすぎない。月次計画やキャッシュフローなど必要資料は我々が先回りして整え、幹部とのギャップは間に入って埋める。ただし、やりすぎて事業を"管理"し始めたら本末転倒。あくまで場を通過させるための補助輪にとどめます」
彌重さん「社内起業と社外の起業、事業計画の引き方は本当に違います。社内は月次で追われがちですが、初期はチャンスもピンチも不連続に起きる。だから柔軟性を奪わない運営と、外の顧客に向いた検証が不可欠です」

リニューアル前、どこに最大の断絶があった?
雨宮さん「学習→コンテスト→事業検証→事業化の"接続"が壊れていました。POCでお客さまが一社ついた、だから会社化できる——ではない。お金を払う顧客が多数存在し、戦略として拡張できる道筋が必要です。にもかかわらず、検証を重ねたらVCに回れると思い込んだ案件が大量に上がってきた。ここを変える必要がありました」
アイデアの質はどう高めた?
雨宮さん「応募は約300件。最終的に残ったのは11件です。コツは"一次審査で徹底的にフィードバックし、その場でアイデアを進化させてもらう"こと。ここで見えるのがファウンダーの柔軟性。こだわりを曲げられず固着するチームはおおむね伸びません。逆に指摘を吸収して仮説を書き換えられるチームが残っていきました」
彌重さん「思い込みを外せるかは初期の重要テストです。広告や顧客の声に触れた瞬間に仮説を更新できるか。柔軟性はそのまま学習速度になります」

伴走支援を外部から内製へ。何が変わった?
雨宮さん「構造的に、外部コンサルは案件を残すインセンティブが働きがちです。厳しいことを言って落とすほど自分たちの仕事がなくなるから。内製すると、落とすべき案件は落とすし、上げるべき案件は上げる——当たり前の健全さが戻りました。ベースのCPFは社員がみっちりやり、起業経験者や専門家のスポットメンタリングは必要な時に。」
彌重さん「社内でフィードバックを回すと、"フィードバックする側"の学習が蓄積します。翌年の審査レベルが上がり、通過基準が自然と鍛えられていく。長期で見て最も効く投資はここだと感じます」
市場選択は未来予測で難しい。どう評価する?
雨宮さん「完全な正解はありませんが、まず規模感。小さすぎる市場はどんなに頑張っても百億事業にならない。拡張可能性が見えるかを見ます」
彌重さん「"大きそう"の直感で終わらせず、仮置きでも根拠ある試算をする。現時点で小さくても、成長率を置けば"張る価値があるか"は見える。時間軸を含めてTAMを言語化する力を評価に入れました」
経営層への説得——マイナー出資で外に出す意義は?
雨宮さん「表向きには"未踏領域に素早くアクセスし、大きな事業と経営者を育てる"。裏側の本音もあります。新しいことをしたい社員は放っておけば辞める。辞められるくらいなら、うちの制度で挑戦してもらい、ゆるやかな関係を保つ方がいい。月一のモニタリングや出向で接点を保ち、いつでも協業・取り込みの選択肢を持てる状態を維持します」

制度設計の学び——再現可能なポイントは?
雨宮さん「"起業家ファースト"を本当にやる覚悟です。持分比率、評価軸、審査基準、すべてを投資家目線へ振り切る。理想状態をフェーズごとに定義し、基準に沿って議論する。そうしないと毎回"好き嫌いの審査"になります。評価表が固定化されると、フィードバックの質が揃い、受け手の納得感も上がります」
彌重さん「変えない部分・変える部分を最初に言語化し、関係者の合意を丁寧に取ること。外部の問い直し役として"なぜそれをやるのか"の芯を磨き、運営者が自信を持って社内を説得できる状態まで落とし込むことです。結果として、現場のフィードバックが具体になり、挑戦者は迷わず次の検証に進めるようになります」
今後、プログラムはどう進化させる?
雨宮さん「社員だけではアイデアも人材も枯渇します。だからオープン化です。VCや事業会社との連携を拡げ、テーマ設定型でトレンドに沿った挑戦を促す。経験者にはショートカットのルートを用意して、再チャレンジの摩擦を下げる。過去参加者のコミュニティを温め続け、熱量と学びを循環させることも重視します」
彌重さん「コミュニティ設計は要。挑戦者同士が切磋琢磨できる場を運営側が丁寧に温める。そこに審査基準や型が通っていると、年を追うごとに『通過する案の地力』が上がる。内製の伴走と外部のスポット知見、そのハイブリッドを回し続けるのが勝ち筋だと思います」
会場Q&A
スピンアウトで出資比率が低いと、会社に残るものが少なくなるのでは? 経営層にはどう訴求したのでしょう
雨宮さん「狙いは三つです。第一に、未踏領域へ素早くアクセスして事業を大きくすること。第二に、外で戦える経営者を育てること。第三に、出ていくはずの人材を"関係人口"として留めること。完全に手放すより、ゆるやかなつながりを保つ方が長期のリターンは大きい。将来の協業・取り込みのオプションも持てます」
質問者「社内のアセットや関係性の引き渡しは複雑になりませんか」
雨宮さん「そこは制度で整理します。持分は原則15%未満、月次のモニタリングと情報連携をセットにし、必要に応じて出向で橋渡しをする。最初から"べったり連携"を前提にせず、事業成長を最優先に据える設計にしました」
未来は不確実。市場選択の評価をどう説明していますか
雨宮さん「規模と伸びしろをまず置く。それから"拡張可能性"です。ニッチから入っても、プロダクトやチャネルの拡張で大きなTAMに届くのか。ここを対話します」
彌重さん「応募段階で、候補者自身に簡易でも市場試算と成長率を置いてもらう。『大きそう』で終わらないことが大事です。波を捉える目と、TAMを言語化する筋力を見ています」
まとめ——問いを立て、外で検証し、やり抜く
本セッションの要諦は三つに尽きる。
一つ目、社内の論理に閉じず外部視点で再定義すること。
二つ目、ゼロベースで"解くべき問い"を問い直し、審査基準と理想状態を明文化すること。
三つ目、実行まで伴走し、起業家の学習サイクルを社内に蓄積すること。
大企業から本気の新規事業を生み出す道筋は、思った以上に具体的だ。次はあなたの番である。
